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「貧困による軽犯罪対策を考える」

今日の毎日新聞のコラム「経済観測」には中央大学教授・宮本太郎氏の「刑務所大国・米の轍(てつ)を踏むな」と題する論説を掲げている。まずはその全文を転記する。

世界の投資家が注視するアメリカの景気指標の一つに就業率がある。どれだけの国民が働いているかを示す指数だ。今後その見通しは、意外なところから極めて厳しくなると言う。アメリカ連邦捜査局の犯罪データベースには、軽微な件も含めると成人のほぼ3人に1人の記録がある。雇用主はこうした記録を重視するので、雇用改善には絶対的な壁があると言うわけだ。英紙フィナンシャル・タイムズの記事だ。

何しろアメリカの受刑者数は約230万人で、統計上は世界の受刑者の4分の1に相当する。各州が刑務所の管理と維持のために負担するコストは、520億ドル(約6.4兆円)を超え、これらの費用が高等教育への支出を上回る州も現れている。

これに対して、矯正統計によると日本の受給者数は6万人を切っていて、減少傾向すらある。だが、その中で確実に増大しているのが高齢受刑者である。各年度に入所する65歳以上の高齢受刑者の数は、1994年から2013年の間に5倍になった。再犯率が大変高く、入所が6度目以上である受刑者が約4割に達している。

筋金入りの犯罪者ぞろいと言うわけではない。高齢者の検挙罪名は60.4%が万引きで、それを繰り返している例も多いのだ。法務総合研究所の調査では高齢者の窃盗事犯の場合、66%以上が生活困窮を動機としている。

刑務所が「老後破産」の受け皿になりつつあるとすれば、事態は重大である。そもそも誰も幸福にならないばかりか、アメリカの先例からも窺えるように、やがてコストも甚大になる。

ところが、生活保護給付が増えることに神経質な人たちも、こちらのコストにはなぜか無関心だ。出所後の受け皿作りを含めて対応が急務だ。

ここに書かれているように、生活保護などの社会保障費の増加は、我々も気になるが、刑務所収容の費用についてはまるで考えたことがない。

近頃は未成年者の犯罪や精神不安定が原因の犯罪が多発して、一般市民の生活を脅かしている。警察は毎日発生する犯罪の捜査と犯人の検挙に追われているが、犯罪の温床となる現代社会の歪みを正すような、根本的対策は先送りされている。

こうした問題の対応は政治家の役割と思われるが、多くの政治家は、こんな地道なことは、やりたがらないようである。マスコミも凶悪犯罪や青少年犯罪が発生すると、一斉に根本的対策の不備を論(あげつら)うが、連日の紙面で読者の注意を喚起する努力等はしていないようである。

安倍政権が推し進めるアベノミクスでは、低所得者の賃金引き上げを経済界に促しているが、長年の不況に苦しんできた企業経営の神輿(みこし)はなかなか上がらないようである。

それでも大企業は今春ベースアップを断行したところもあるようだ。しかし大半の中小企業では人材確保のためやむなく賃上げをしたところもあるようだが、経営は一段と厳しくなっていると聞く。

中国の経済成長の鈍化が世界経済に影を落とし、日本もその煽(あお)りを受けかねない。そのような時、低所得者の賃金引き上げは、一企業では躊躇(ためら)われるところだろうが、国の政策として、そちらの方向へ誘導すべきことと思われる。そのための費用は、失業保険、生活保護費、刑務所収容費や犯罪取り締まり費用と一括して計算すれば、捻出できるのではあるまいか。

こうした発想は、従来の縦割り行政では見落とされがちなことに違いないが、内閣官房長官の下で総合的に検討してもらいたいと考える。

(平成二十七年八月二十三日)

ramtha / 2016年1月24日