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五、事務用品・文房具など(⑤ ファイル)

⑤ ファイル

仕事を離れて二十年以上もなるので、今日、会社では、どのような事務処理が行なわれているのか、私には全く分からない。どうもあらゆる事務がコンピューター処理され、必要な文書やデーターは、全てフロッピーディスクに保管され、必要に応じて引き出し利用されているのではないかと想像している。

パソコンなど無かった昭和四十年頃までは、往復文書や会議の記録、いろいろな統計表などは、後日利用できるように分類整理して保管していた。
昭和二十年代頃は、保管すべき書類の綴代の部分に、錐(きり)で二つ穴を明け、これに黒い綴じ紐を通して、背表紙のついた文書挟みに綴り込み保管していた。
錐で明ける穴は、目測でするので位置が一定しない欠点があった。後に、JIS規格による一定間隔の二つの穴を同時に明けるパンチの出現で、その点は解消されることになった。さらにプラスチック製の差し込みと金具の押さえを備えたファイルブックが出回り、書類の整理保管は著しく簡単なことになったが、それが何時頃のことであったかは、定かな記憶は無い。

昭和二十六年から翌年にかけて、麻生本社労務課に勤務していたが、当時、労務課の課長代理であった木庭暢平さんから「会社の書類はみんなの書類で、何時でも、誰でもが取り出して見ることが出来るように、整理しておかなければならない。個人の机の中にしまうなど持ってのほか、必ず書類綴りにファイルして書棚に保管するように。」
と躾られてきた。

だから、私は社内どの部署でも、同様に処理されているものと思っていた。ところが昭和三十二年、配転で文書課に来てみると、わずか四、五名の課員が、自分の処理した書類は、それぞれの机の柚や引き出しに保管している。必要があって同様な事案の前例となる書類を見るためには、それを保管している課員に出して貰わねばならない。これでは仕事の能率が上がらない。労務課方式に変えようと思うが、課員一同従来の慣習を固執して従わない。結局その後、課員を入れ替え、新たに転入してきた社員を動員して、書類の整理をやり直したが、過去の書類全部を整理し直すにはずいぶん苦労した。

今時は、よろずコンピュ-ターで事務処理されているようだから、関係文書も統計数字もCDの中に整理保存されていて、必要に応じ引き出されて利用されているのではないだろうか。私たちのようにファイルの分類整理や保管などの苦労をすることは無いに違いない。

しかし、昔は記帳の度に、帳簿を捲(めく)らねばならないので、その都度当然過去の記録が目に入るし、また過去の統計表を参照したりしたとき、いろいろな数字に目を通すことになる。そうした中で、意外な記録に気づいたり、時には不自然な数字から不正を発見したりすることがあった。

言うなれば、昔のやり方には一覧性の利点があったように思われるが、今日のコンピューターシステムでは、そのあたりのことはどうなっているのだろう。

近年、官庁や銀行その他の企業で、従業員による長年にわたる使い込みが発覚したという事件をしばしば耳にする。昔も会計担当者の使い込み事件というのはあったが、今日報道されているような、巨額で長期にわたる事件はあまり無かったように思う。

どうしてこんなことになってしまったのか。監督者に緊張感が無くなったのではないかとか、経理担当者の人事異動が少なくなったのではないかなどと、考えてみたりもしたが、前述のコンピューターシステムによる一覧性の欠如もその一因ではないかと思ったりしている。

今日の仕事はスピード第一で、常に前へ前へと突き進むことばかりに専念しているのではないか。たまには過去を振り返り、落ち度は無かったか、より良いやり方は無かったかと反省してみることが必要なのではと、私のような前世紀の人間は思うが、どうだろう。

ramtha / 2016年5月10日