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七月八日 「英国EU離脱に関して」

英国のEU離脱は、大方の予想を裏切る結果の故か、あるいは世界経済に与える影響の大きさからか、連日新聞の紙面を賑わしている。

昨日の毎日新聞では、欧州総局の坂井隆行氏が、「ツケを払うのは国民だ」と題する次のような一文を載せて居る。

英国が欧州連合(EU)からの離脱を決めた六月二三日の国民投票の衝撃がまだ消えない。四年近い英国特派員経験から、私は最後は英国民が良識を発揮し、残留を選択すると期待していた。だが世界を覆うポピュリスム(大衆迎合主義)の波は議会制民主主義の母国・英国までのみ込んでしまった。英国民は長い時間をかけて、このツケを払っていくことになるだろう。

国民投票を巡り、英国に住むさまざまな年齢、職業の人に話を聞いた。中でも印象に残るのが、投票後の若者たちの声だ。ある大学生(二三)は「世界最大の単一市場から抜けて英国に未来はあるのか。このままでは欧州の中で孤立するだけだ」と悲痛な表情で訴えた。

世論調査会社「YOUGOV」によると、残留を望む割合は一八~二四歳で七一%に達した。EUから二十三年がたち、若者には「欧州人」としての意識が着実に根付きつつあったのだ。それを主に中高年が「EUの支配から独立する」と称し、一気に時計の針を戻してしまった。残念でならない。英国ほど絶妙にEUのメリットを享受している国はないからだ。

英国はEUの単一市場の中で、輸出の半分を大陸側に送り出し、優秀な人材とカネを取り込んでロンドンの金融街シティーの繁栄を築いてきた。EU内の大国として影響力を行使することは、英国の外交面での存在感も一段と高めていた。一方で、単一通貨ユーロや出入国審査を撤廃する「シーノゲン協定」からは除外が認められ、近年のユーロ危機や難民問題の影響から免れてきた。いわば「いいとこ取り」の状態だったのである。
だがこうした独特の地位は離脱で失う可能性が高い。英国を除くEU二七カ国は先週、英国が移民の「移動の自由」をなどを受け入れない限り、単一市場参加を認めないと宣言した。英国がこれまで通り単一市場のメリットを受けようとすれば、過去の特権を失った上で、移民受け入れや分担金支払いを認めざるを得ない。それが嫌なら、英国は単なる「域外国」として、関税などの貿易障壁が課せられる。どちらにしても今より悪くなることは避けられない。

それでもキャメロン英首相らは今回、「民主主義の結果であり民意は尊重しなければならない」と強調する。だが、国民投票を実施したこと自体、適切だったのだろうか。

国民投票の実施を約束した二〇一三年一月、キャメロン首相は保守党内の厳しい圧力にさらされていた。EU離脱を党是とする英国独立党が躍進し、支持層を奪われる危機感が党内で高まっていたためだ。首相は残留が英国の利益だと自覚しながら党内の不満をなだめ、自らの地位を確保する政略として、国民投票を安易に利用した。

「民意」の中身も曖昧だ。離脱派について、英国外では「反移民」のイメージが強いと思うが、離脱派の会社経営者(五三)は「移民は大歓迎で、ビジネスにもプラスだ」と強調した。彼が主張するのは、「EUは官僚に支配され、民主的ではない」という一点だった。一方、離脱派集会に参加した無職男性(二二)は「英国が主権を取り戻せば暮らしは良くなる」と語った。一口に「民意」といっても内実は一様ではなかった。

本来、EU離脱という重大な選択を国民に迫るなら、曖昧さを無くすため、離脱後に目指す具体的な将来像を示すべきだろう。だが数ヶ月にわたる運動で、離脱後の国家像を明示した政治家は見かけなかった。あったのは「EUを離脱すれば全ての問題が解決する」という大衆迎合型なメッセージだけだ。英紙ガーディアンは「離脱派を率いたのは人々のムードだった」と指摘したが、同感だ。重大な決定があまりに曖昧な空気によって決められてしまった。

今回の国民投票は参院選挙を目前にした日本にとっても教訓になる。解決が容易ではない社会問題を一つの原因に単純化したり、聞こえの良い将来像だけを示す政治家には要注意。これからのEUとの交渉という困難な局面を前に、離脱派を主導したポリスージョンソン前ロンドン市長は保守党党首選不出馬を決め、英国独立党のナイジェル・ファラージ党首も党首を辞任し、さっさと逃げ出してしまった。誤った判断のツケを最後に払うのは、結局はポピュリズムをあおった政治家ではなく、私たち国民だ。

新たな英国の指導者には、国民を不必要にあおることなく、離脱のダメージを少しでも減らすような冷静な交渉を望みたい。英国を成熟した民主主義のお手本にしてきた日本人として、切に願う。

英国の国民投票については、先月二五日「イギリス、国民投票EU離脱を選ぶ」と二七日「欧米人は仮面を脱いだのか」でも取り上げたが、今日の坂井氏の論説をみても、英国人の大半が離脱派が勝つなどと思ってもいなかったようである。残留が英国民の常識で、離脱派が勝つことはないが、二度にわたる世界大戦の戦敗国、ドイツの指導するEUに黙って残留するのも、はらいせだというのが、共通の気持ちではなかったのかと思われる。

なにしろイギリスと言えば、かつては大英帝国として世界に君臨して居たではないか。そのイギリスが、近頃EUのリーダーとしてのさばっているドイツのメルケルおばちゃんの下におとなしくついて行くのも腹立たしい。結論は残留としても、せめてある程度の反対の意思表示をしておきたいと言うのが、大多数の気持ちではなかったか。その反対の意思表示が予想以上となって、大慌てになったのが、ことの真相だろう。

よろず、小細工は思わぬ結果を招くと言うことの良い教訓となったものである。それにしてもイギリス国民としては、手痛い教訓となったものである。坂井氏のご意見ではないが、我々日本人も他山の石として肝に銘じる教訓ではある。

ramtha / 2016年7月28日