今まで使用してきた広辞苑は一九八三年（昭和五八年）第三版のもので、もう三十年以上酷使して来て、ずいぶんガタが来ている。背表紙にはガムテープで補強するなどして来たが、本体の一部が背表紙から離れて使用する度に整え直すなど苦労する毎日であった。

ところがかねて私の駄作に関心を持ち応援して頂いている佐伯裕里子さんから、このほど新しい広辞苑を贈与して頂いた。まことに恐縮の至りで、こんな高価なものを頂いてよいものか、甚だ気にかかったことではあったが、怠惰な老骨を鞭撻されたものとして、ご好意に甘えることとした。

その真新しい広辞苑を恐る恐る開いてみると、二〇〇八年（平成二十年）改定の第六版である。いままで愛用してぼろぼろになったものと頂戴した真新しいものと並べると、旧本の本文2588ページ、収載項目二十万余に対して新本の本文は3044ぺージ、収載項目約二十四万である。にも拘らず本の厚さを比べてみると、旧本の9cmに対して約9.5cm、その差わずかに5mmに過ぎない。その間の製紙技術の進歩向上には驚かざるを得ない。

外観においても格段の相違が歴然としているが、内容においても収載項目が二割増加していることを見ても、二十五年間の日本語の進化が窺われる。

全部を比較検討することはとても不可能なことではあるが、私の思いつくまま最近の新聞紙面に現れる新語と覚しきものを拾い上げて、世相の変遷がどのようなものであったか眺めてみることにした。しかし私にはごく最近現れた新語と想われるものが、実は一九八三年の旧版に既に記載されているものがあったりして、自分の不勉強を改めて思い知らされることもしばしばあった。

いずれにしても旧版には見られないが、新版に掲載されている項目は、その二十五年間に発明・発見されたものや、広く日常化されたものと考えて良いのではないか。

まずは私の気がついたものを拾い上げてみる。

一、アーカイブ

①古文書・記録文書類。また、その保管所。公文書館。
②コンピューターで関連のある複数のファイルを一つにまとめたもの。まとめる際に圧縮されることが多い。
※　ＮＨＫが、昔放映した名作を再放送する際、夕イトルを「ＮＨＫアーカイブス」として居たのを見たのが、私がこの語に出会った初めであった。

二、アーキテクチャー

①建築物。建築様式。建築学。構造。構成。
②コンピューターシステムの論理的構造全般のこと。また、ある立場の利用者から見たコンピューターの属性。「ソフトウェアー～」「ネツトワーク～」

三、アートフラワー（和製語）

布で、自然のものに模して作った造花。（料理研究家飯田深雪の命名）

四、アームレスリング

腕相撲。

五、ＩＨ調理器

電磁調理器。電子レンジ。

六、アイカメラ

ものを見る際の眼球の運動の軌跡や眼の停留位置・停留時間などを記録する装置。広告やＣＭのどこがよく見られるかを調べる時などに使う。

七、アイドル

①偶像。
②憧れの対象者。人気者。特に、青少年の支持する若手タレント。
※　テレビも滅多に見なくなった老骨には、今人気のアイドルは誰か知らないが、ときに耳にするAKB48などというのもその中に入るのだろうか。

八、アキパ

秋葉原の略
※　秋葉原は家電商品販売店が並ぶ商店街として有名であったが、何時のことだったか、麻生太郎代議士が秋葉原で街頭演説され、若者の人気の的となったことから、一躍若者の街として有名になった。

九、アジェンダ

予定表・議事日程・行動計画。
～２１＝（ニー世紀行動計画の意）持続可能な開発の実現を目指して、各国や国際機関が実施すべき具体的な行動計画。

十、アナリスト

分析家。特に、精神分析や社会情勢・証券業界などの調査・分析の専門家。

十一、アプリケーション（適用・応用）

アプリゲーションプログラムの略。コンピューターで、使用者の業務に応じて作成されるプログラム。

十二、アンチ・エイジング

老化を防止すること。

十三、いけめん

若い男性の顔かたちのすぐれていること。またそのような男性。（多くカタカナで書く）
※　以前はハンサムと言われていたが、今の若者には使われなくなったのだろうか。
なお昭和初期にはモボ（モダンボーイ）という言葉もあったが、今では死語となっているようである。

十四、糸川英夫

ペンシルロケットを開発した日本の宇宙工学のパイオニア。

十五、インターネット

世界規模のコンピューターネットワーク。

十六、インストール

オペレーティングーシステムやアプリケーションをコンピューターで使えるようにす
るために、記録し設定すること。プログラムーファイルやデーターファイルをハードーディスクなどに適切な状態でコピーし関連ファイルを書き換えるなどの一連の作業を指す。組み込み。導入。

十七、インフラ（インフラストラクチャー）

産業や社会生活の基盤となる施設。道路・鉄道・港湾・ダムなど産業基盤の社会資本、及び学校・病院・公園・社会福祉施設等の生活関連の社会資本など。

十八、ウォークマン（和製語）

ヘッドホンまたはイヤホンで聞く携帯用小型ステレオーカセット再生機。

十九、ＮＰＯ

行政・企業とは別に社会的活動をする非営利の民間組織。一九九八年成立の特定非営利活動促進法により法人格を付与される。

二十、オイルショック

一九七三年、第四次中東戦争の際、アラブ産油国がアメリカやオランダなどのイス
ラエル支持に対抗して原油の減産や値上げを行ない、世界経済に大きな影響を及ぼしたこと（第一次）。
七八年のイラン革命による原油価格高騰（第二次）

※　第一次オイルショックの時は流言蜚語が飛び交いトイレットペーパーが売り切れる店も出ると言う騒ぎがあった。

二一、オタク

特定の分野・物事にしか関心が無く、その事には異常なほどくわしいが、社会的な常識には欠ける人。仲間うちで相手を「御宅」と呼ぶ傾向から。

二二、ガーデニング

園芸。造園。特に自然の風景をそのまま生かしたイギリス風の庭作りをいう。

二三、カーソル

①計算尺や測量機械などで、目盛りを読み合わせたりするための左右に動く透明な板。
②コンピューターなどのデスプレー画面上で、文字・図形を入力・表示する位置を指し示す下線や記号。

二四、カーナビ（カーナビゲーション）

人工衛星からの電波を車上で受信し、運転席の装置に位置や経路を表示する電子装置。

二五、カスタマイズ

①既製品を注文に応じて改変すること。
②コンピューターの設定を利用者が必要や好みに応じて変えること。

二六、介護保険

社会保険の一つ。要介護高齢者への在宅サービス・施設サービスの提供を保険料と公費によって運営する制度。一九九七年制定、二〇〇〇年施行の介護保険法により定められる。

二七、カウント・ダウン

特定の時点までの残り時間を知るため、数を大きな方から小さな数へ（ゼロまで）数えること。

二八、カタカナ語

普通カタカナで表記する、主に欧米から入って来た外来語。日本で外来語に模して作られたものを含む。

二九、過労死

過度な仕事が原因の労働者の死亡。一九八〇年代後半から一般化した語。

三〇、キーワード

①文意などを解く上で重要な鍵となる語。
②情報検索の手がかりとするため、その検索対象の特徴を表わすものとして索引に取り出した語

三一、キャッチセールス（和製語）

街頭で通行人を呼び止めて行なう詐欺まがいの販売方法。

三二、キャラ（キャラクターの略）

①性格・人格・個性
②小説・映画・演劇・漫画などの登場人物。その役柄。
③文字・記号。

三三、キャラクター商品

販売を促進するため、テレビや漫画などの登場人物やそのシンボルマークなどを付した商品。

三四、キャラバンシューズ（和製語）

布地に厚いゴム底で防水性をもたせて作った、軽登山・ハイキング用の編上げ靴。商標名。

三五、ギャル

ガールの訛り（米語）若くて活発な娘。

三六、クリック（カチツという音の意から）

コンピューターでマウスのボタンを押して離すこと。

三七、くろよん（九六四）

給与所得は九割捕捉され課税されるのに対し、営業者は六割、農民は四割程度であるというサラリーマンの重税・不公平感を示す俗語。
※　なお、十五三一　（とうごうさんぴん）一は政治家を指す言い方もある。

三八、ケイタイ（携帯電話の略）

無線を用いた持ち運び可能な小型電話機。

三九、光線過敏症

通常は異状を起こさない量や波長の光線で発赤・皮疹などの皮膚症状を起こす病態。多形日光疹・日光蕁麻疹・色素性乾皮症・ポルフィリン症などがある。

四十、サーバー

ネットワーク上で他のコンピューターやソフト、すなわちクライアントにサービスを提供するコンピューター。

四一、サイト

①手形などの振り出し日から満期日までの期間。決済期限。
②用地。敷地。キャンプ～。
③インターネットにおいて、特定の情報を蓄積しているコンピューターまたはそのコンピューターを含むシステム。

四二、サイバー・テロ

国家や社会基盤の情報システムに侵入し、データの破壊・改竄（カイザン）などを
行なうことで、社会機能を不全に陥らせる行為。

四三、サプリメント

①付録。補遺。
②栄養補助食品。体に欠乏しやすいビタミンーミネラルーアミノ酸・不飽和脂肪酸などを、錠剤・カプセル・飲料などの形にしたもの。サプリ。

四四、シーイーオー（ＣＥＯ）

最高経営責任者。米国企業の経営組織上の呼称で、会長・社長などの職階とは異なる。近年日本にも定着。関連する役職にＣＯＯ（最高業務執行責任者）、ＣＦＯ（最高財務責任者）などがある。

四五、シャッター通り

シャッターを下ろしたまま営業していない店舗が多い通り。さびれた商店街。

四六、ジャンクフード

高カロリー・低栄養価のインスタント食品・スナック菓子・ファーストフードなど
を揶揄（ヤユ）していう語。

四七、省エネ

エネルギー資源の枯渇を防ぐため、電力・石油・ガスなどの消費の節約を図ること。

四八、シングルマザー

離婚した母や未婚の母など、一人で子供を育てている母親。

四九、シンドローム

症候群

五十、シンボルマーク（和製語）

ある団体・運動などを象徴する色。

五一、スクリーニング

①ふるい分けすること。選抜。選別。
②多くの物質から目的とする一定の活性持つものを選別するテスト。
③集団の中から健康上疑いがあり、精密検査を要する者ないし発病者を選び出す医学的ふるいわけ。

五二、スケーポー（スケートボートの略）

平地や斜面を滑走するため、足を乗せる板に車輪をつけたもの。滑走しながら、回転などの技を競う。

五三、スターマイン（和製語）

多数の小型花火を連続して打ち上げる仕掛け花火。

五四、ストーカー

特定の個人に異常なほど関心を持ち、しつこく跡を追い続ける人。一九九〇年代後半から社会問題化

五五、ストーリーテラー

①物語の進行役。
②話の運びがうまい人。また筋立ての面白さで、読者を引きつける作家。

五六、スマートメディア

メモリー・カードの規格の一つ。デジタルーカメラやＩＣレコーダーの記録媒体
に使われる。商標名。

五七、セクハラ（セクシャル・ハラスメントの略）

性にかかわって人間性を傷つけること。性的嫌がらせ。

五八、ソーラー・システム

太陽光線をエネルギー源として総合的に利用する機構。特に冷暖房・給湯・給電など建築にかかわるもの。

五九、タイブレーク

テニスでゲームーカウントが六対六または八対八になったとき、ニポイント差以上で七ポイントを先取した方をそのセットの勝者とする方法。

六十、ダウンロード

プログラムやデータを、あるコンピューターから、それに接続した下位のコンピューターに転送すること。

六一、タブレット

コンピューターで、ベンで平面板をなぞって図形データを入力する装置。

六二、男女共同参画社会基本法

男女が社会の対等な構成員として社会活動に参画する機会を確保し、政治的・経済的・社会的・文化的利益を享受するためのの施策の基本を定めた法律。一九九九年制定。

六三、男女雇用機会均等法

雇用の分野において男女の均等な機会および待遇の確保を目的として制定された法律。募集・採用・配置・昇進・職種・労働契約更新について事業主による性別を理由とする差別の禁止、婚姻・妊娠・出産等を理油とする不利益取り扱いの禁止、セクシャルハラスメントに関する雇用管理上の措置の義務づけを定める。一九八六年施行。

六四、チンする

初期の電子レンジの調理終了の合図の音から電子レンジで加熱すること。

六五、ディープ・エコロジー

人間に特別の価値を認めその利益を目的にするのではなく、全ての生命にそれ自体としての価値を認める立場から地球の生態系を保護しようとする思想。一九七二年にノルウェーの哲学者ネスが提唱。

六六、データーベース（情報の基地の意）

系統的に整理・管理された情報の集まり。特にコンピューターで、さまざまな情報検索に高速に対応できるように大量のデータを統一的に管理したファイル。またそのファイルを管理するシステム。

六七、デリバティブ

債券・株式など本来の金融商品から派生した金融商品。先物取引・オプション取引・スワップ取引などがある。金融派生商品・派生債券。

六八、トークショー

有名人・芸人などのお喋りを楽しむ興業。

六九、ドーピング（麻薬を与えるの意）

スポーツ選手が運動能力を高めるため筋肉増強剤・興奮剤・覚醒剤・鎮静剤など薬物を使用する不正行為。

七十、独身貴族

自由で経済的にも時間的にも余裕のある独身者を羨んでいう語。

※　昔、炭坑では独身のことをチョンガーと呼んで居たが、あれは朝鮮語で未婚の男子のこと。成年を過ぎた独身男子の蔑称（ベッショウ）。

七一、ドメスティックーバイオレンス（ＤＶ）

夫や恋人など親密な関係にある男性から、女性が加えられる暴力。家庭内暴力。

七二、ドラッグ・ストア

化粧品・洗剤・雑誌などの販売店を兼ねた薬屋。アメリカでは多く軽飲食店をも兼ねる。

七三、鳥インフルエンザ

インフルエンザーウイルスのうち、鷄に感染するＨ５Ｎ１型による疾患。本来鳥の疾患であるが、人への感染例もある。

七四、ニート

職業にも就かず、教育・職業訓練も受けて居ない若者。無業者。イギリスで生まれた語で、二〇〇四年ころから日本でも問題化。

七五、認知症

成人後期に病的な慢性の知能低下が起きる状態。いわゆる呆け・物忘れ・俳諧などの行動を起こす。主な原因は脳梗塞など脳血管系の病気とアルツハイマー病。もと痴呆症と呼んだ。

七六、ニュースショー

ショー形式の報道番組

七七、ハイブリッド

①雑種。
②異種のものを組み合わせたもの。

七八、ハイブリッド・エンジン

複数の動力機構を組み合わせたエンジン。特に内燃機関と電気モーターの二つの動力機構を持つエンジン。

七九、ハイブリッド米

雑種強勢の性質を生かして、異なる品種の交配によって作られた米。多収穫が特徴。

八〇、派遣労働

派遣会社が雇っている労働者が、派遣先の企業に派遣されて業務にあたる労働形態。

八一、パック・ツアー（和製語）

旅行業者などが主催して一般から参加者を募集し、運送・宿泊・観光などを一括した旅行費用を集めて行なう旅行

八二、パブル経済

投機によって生じる、実体経済とかけはなれた相場や景気。近年の日本では一九八〇年代後半～九〇年代初頭にかけて起こった地価・株価の騰貴をいう。

八三、バリアフリー

身体障害者や高齢者が生活を営むうえで支障が無いように商品を作ったり建物を設計したりすること。また、そのように作られたもの。

八四、ハローワーク（和製語）

公共職業安定所の通称。

八五、パワハラ（パワーハラスメント・和製語）

職場で上司が、その地位を利用して、部下に行なういじめや嫌がらせ。

八六、ＢＳ

放送衛星。転じて、衛星放送の意に用いる

八七、ぶりっこ

それらしく見せようとする態度が見え透いていて鼻につく人。特に、かわいく見せようとする人。
※昔は「気取り屋」と言ったが死語となってしまったのか、あまり耳にしなくなった。

八八、ヘッジファンド

リスクを回避しながら収益を得ることを目的とする大口の投資信託。限られた数の投資家から資金を集め、デリバティブを駆使したり投機的な手法を用いたりして運用される。

八九、ペットボトル

ポリエチレン・テレフタラート製の瓶。軽くて割れにくく、清涼飲料などの容器に用いる。

九十、ヘルパー

家事の手伝いなどをする人。また、ホームーヘルパーのこと。

九一、ファーストフード

注文してすぐ食べられ、また持ち帰ることのできる食品。ハンバーガー・フライドチキンなど。

九二、ホームステイ

留学生などが滞在地の家庭に宿泊し、家族の一員として生活すること。

九三、ホスピス

癌などの末期患者の身体的苦痛を軽減し、残された時間を充実して生きることを可能とさせるとともに。心静かに死に臨み得るよう幅の広いい介護につとめるための施設。またそのような活動。

九四、ホスピタリティー

客を親切にもてなすこと。また、もてなす気持ち。

九五、マウス（形状がネズミに似るところから）

コンピューターの位置入力装置の一種。操作者の手元の
平面で動かしたときの前後左右の移動量を利用する。カーソルや図形情報の移動に用いる。

九六、目出し帽

目の部分だけを出して、頭からすっぽりかぶる帽子。スキーヤーや登山家が用いる。

九七、メタボリック症候群

内臓脂肪型肥満に加え、高血糖・高血圧・脂質異状症のうち二つ以上を合併した状態。動脈硬化の危険因子として注目される。

九八、ライトアップ

夜間投光器や電飾などを用いて、建造物・記念碑・樹木などを、明るく浮かびあがらせること。

九九、リコール

自動車などで、製品に欠陥がある場合、生産者が公表して製品を回収し無料で修理すること。

百、レジーム

①政治体制。政体。政権。
②通商・金融・環境など特定の問題で、各国の同意の上でルールや紛争解決の方策を定める制度。国際レジーム。

ここに掲げた百語を眺めて、私なりに感じたことを並べてみる。